社会のノーマライゼーション化を、バリアフリー観光という経済システムに乗せて達成する。それが、伊勢志摩バリアフリーツアーセンターの目指すところです。
もとは、当時の三重県知事北川正恭氏から、伊勢志摩観光再生のために将来まで残ることを創り出せ、と命を受けたのが始まりでした。何度も壁にぶつかった末に提案したのが、海外では巨大なマーケットとなっている、バリアフリー観光でした。
伊勢志摩観光の再生のために、日本には定着していなかった体の不自由な人にやさしい観光地を実現し、まだ眠っているバリアフリーマーケットを先取りしようと考えたのです。
これには、まちづくり活動で知り合った車椅子の友人たちの証言が後押しをしてくれました。「障害者も遊びたいし旅行に出かけたいのだけど、バリアフリーの情報が無く、あっても信用できない」、さらに「社会が、障害者も楽しみを求めている普通の個人であるという意識に欠けている」
彼らの話を聞いて、『障害者の気持ちを理解して、障害者から信頼される観光地づくりと情報発信をすれば、伊勢志摩の今までの観光資源を失うことなく、新たなマーケットが広がる』と確信しました。
人を助ける福祉も大切ですし、ハードの整備をするユニバーサルデザインも必要でしょう。しかし、日本の社会には、障害者や高齢者を同じ一人の人であり、社会に参画する権利も義務も等しくあるというノーマライゼーションの考え方こそが不足していたのです。
観光におけるノーマライゼーション社会の実現は、体の不自由な旅行者を一人の旅行者としてもてなします。
旅する楽しみ、観光の喜びを、旅行に出かけたいと思う人なら、誰もが平等に体験できるのです。
さらに、観光地のバリアフリー化は、地域に暮らす人々のノーマライゼーション社会をも実現します。
伊勢志摩では、地元の障害者がボランティアで、バリアフリー調査や指導を行い、自らノーマライゼーション社会を創り上げているのです。
そのような信念の下に、地元障害者の仲間とともにバリアフリー観光を実現していくうちに、伊勢志摩へのバリアフリー旅行者はめざましく増え、ユニバーサルデザイン化を進める宿泊施設も毎年のように増えてくるようになりました。
そして、それと同時に、一般の旅行者からの評判も上がってきました。
実は『障害者の気持ちを理解して、障害者から信頼される観光地づくりをすること』とは、『旅行者の気持ちを理解して、旅行者から信頼される観光地づくりをすること』に他なりません。
今まで観光業界は、観光地と旅行代理店がお互いにそれぞれをお客様と考え、一人ひとりの旅行者にはおざなりな対応をしてきました。それが日本の観光地の凋落に繋がったのです。
しかし、私たちは市民の手で、障害者自身の手で、宿泊施設自らの意志で、観光業界にあった悪循環を払拭することができたのです。
現在、伊勢志摩バリアフリーツアーセンターの考え方は、全国の観光再生のモデルとなり、各地にバリアフリーツアーセンターが設立されつつあります。視察や講演依頼が絶えることがありません。
江戸時代の伊勢神宮への「おかげ参り」が日本の観光の始まりであったというこの伊勢志摩で、日本の新たなる観光の姿「バリアフリー観光」を始めることができたのは、私たちにとって存外の喜びです。
今後も、バリアフリー観光の先駆者として、日本最先端のバリアフリー観光システムづくり、ノーマライゼーション社会づくりを進めていきたいと決意を固めていますので、なにとぞごひいきにしていただきますようお願い申し上げます。
NPO法人伊勢志摩バリアフリーツアーセンター理事長 中村 元
理事長中村元は現在、東京在住。日本で唯一の水族館プロデューサーとして活躍しています。
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